さぎりは、その香り袋を見たことがあった。
 香りはしない、さぎりには分からない。
 けれども、()()()、その香り袋が視界に入った瞬間、希海の母である崇史のご令姉(れいし)様が苦しみ始めて――。

「キュンッ!?」
「子狐ちゃん!」

 香り袋を見た子狐は、悲鳴を上げると、苦しそうに悶えて、さぎりの肩から滑り落ちた。
 さぎりは慌てて子狐を腕で受け止めたけれども、子狐は苦しそうに小さな声を上げている。
 周りの狐火は消え、男達の手がさぎりに伸びた。

「触らないで! あ、貴方達、この子に何をしたの!?」
「答える必要はない、連れて行け」
「は、離して! この子に手を出すなら、行きません! 触らないで!」

 抵抗するさぎりを、子狐ごと、男達は馬車に押し込めてしまう。

 こうして、さぎりは何者かに連れ去られてしまったのである。