「何故だ! なんで、力が使えない!!」

 豪奢な洋風の室内にて、男は高級な壺を壁に投げつけ、壺は大音量と共に砕け散る。

 白銀の長髪、端正な顔立ちに灰色の瞳をしたその男の名は、龍美(たつみ)征雅(せいが)
 龍美家の二男である。

 公爵家の二男である彼の部屋は、それは贅沢な作りのものだ。流行りの洋風に仕立てたそれは、最先端の調度品を誂えており、それでいて趣のある、上品な作りの一室である。しかし、その部屋は今、壁紙が傷つき、調度品は壊れ、窓にはひびが入り、惨憺たる有様だった。
 そして、その部屋の中央で、腕から血を流した使用人が数名、震えながら佇んでいる。

「こんな傷、治せる筈なんだ。何故治らない!」
「ひいぃっ、お許しを……!」
「何か異能の力を使って阻んでいるんじゃないか!? この、不届者が! 龍美家に楯突くか!」
「決して! 決して、そのようなことは……ぎゃっ!?」

 怪我をした使用人を殴りつけると、征雅は全員に出て行くように指示する。
 慌てて出て行く使用人達に目を向けることもなく、肩で息をした征雅は、ただ、何も生み出さない己の手を見つめていた。