「え、”良かった”……?」

「うん。キレイに痕が消えてるから。残ったら、どうしようかと思った」

「!」



その言葉に、心が石のように固くなる。

だけど固いと思ったソレは、ピシリと音を立てて、今にも崩れそう。



「残っちゃ……ダメだったんですか?」

「え?」

「私が寂しくならないよう、わざと痕を残してくれたんじゃないんですか……っ?」

「……」



奏さんは、キュッと。眉間にシワを寄せた。

だけど私が泣きそうなのを知り、フイと顔を逸らす。



「……過去のことだよ。

だから、ぜんぶ忘れて」

「ッ!」



私の方を見ないまま。

奏さんは冷たい声で、そう言った。

そして私の手に、奏さんがリボンを戻す。その時、指先が少しだけ当たった。


その時の体温は、いつもの奏さんらしくなくて……なんだか熱い、私の知らない人の手だった。