――――――…ハクロとコクロが見せる、幻の世界にやって来て。

…シルナの存在しない、偽りの世界にやって来て、およそ一週間が経過した。

とはいえ、それはこちらの世界の時間であり。

元の世界で、どれくらい時間が経過しているのかは分からない。

もしかしたら、1分とか、一時間くらいしか経ってないのかもしれないし。

あるいは…一ヶ月、一年くらい経っているのかもしれない。

もしそれくらい経ってるんだとしたら、もう決闘終わってんな。

果たしてどうなってるんだろう。

元の世界のことも気になるが、俺はこの一週間で、この世界のことをより詳しく調べた。

…と言っても、大したことは分かっていない。

ただ、この世界にはシルナが存在していないから。

シルナの存在しないことによって、果たしてどんな風に、この国の歴史が変わっているのかを確認しただけだ。

もっと詳しく言うと…大昔に起きたという、邪神と聖神の戦争、とか。

イーニシュフェルトの里とか。神殺しの魔法とか。

大昔に起きたという聖戦、俺も口伝えでしか聞いてないけど。

神殺しの魔法を使ってあの聖戦を終わらせたのは、他でもないシルナの功績である。

この世界にシルナが存在していないのだったら、聖戦は終わらず、邪神が統べる世界になってしまう。

…はずだった。
 
それなのに、今この世界を見てみると良い。

邪神も聖神も、聖戦の話も…一度も耳にしていない。

これはどういうことなのか。

調べてみて分かった。

結論から言うと…この世界にも、一応、シルナは存在しているらしい。

ただ、俺の前に姿を現すことはない。

この世界のシルナは、俺と出会うことはない。

何だかややこしい話ばかりして、大変申し訳無いが。

この世界ではどうも、元の世界であったような、聖神と邪神の戦争は起きていないらしい。

聖戦に関する歴史の記述が、全く残されていないのである。

…まぁ、敢えて記録から抹消されているだけで、もしかしたらあったのかもしれないが。

だけど多分、聖戦が起きなかったというのは事実なのだろう。

この世界に来たときから、ずっと気になっていた。

普段、俺の中には常に…この身体の中に封印されている邪神の気配を感じていた。

いつもは、シルナが俺の身体の奥深くに邪神を封印してくれているから、気にすることはなかったが。

こうしてなくなってみると、よく分かる。

自分の中身が空っぽになったような…。

…なんつーか、内臓一つ二つ失ったような気がする。

いや、比喩だけどさ。

この世界では、俺の中に邪神がいない。

そのせいなのだろうか?…「前の」俺が出てくる気配も、全く無いのだ。

聖戦が起きなかった。俺の肉体に邪神が宿ることもなかった。

聖戦が起きなければ、神殺しの魔法が使われなかったら、俺がシルナと出会う機会はない。

俺の横にシルナがいないのは、多分それが原因なのだ。

その代わり…と言ってはなんだが。

聖戦の記述は見つけられなかったが、イーニシュフェルトの里に関する記述を見つけることは出来た。