僕が贖罪を忘れ、己の罪を忘れ、許された気になることを許さない。

愛する人を作り、居場所を作ることを許さない。

僕は自分の身の程も知らず、生意気にもスクルトという居場所を作ってしまった。

そのせいで、天誅が下ったのだ。

他でもないこの手で、スクルトを殺してしまった…。

…。

…幸せな、未来なんて。

僕達にはなかったのだ。何処にも。

それどころか僕はやはり、天下の何処にも居場所なんてない。

居心地の良い居場所なんて作ろうものなら、また天誅が下り、魔力が暴走してしまう。

その結果、僕は自分の居場所を自分で壊してしまうのだ。

お前のその罪を、脳裏に焼き付けろと言わんばかりに。

…スクルトをこの手で殺してしまってから、よく分かった。

「僕は幸福になることを許されない。居場所を持つことを許されない。そんな幸福は、バケモノのこの手には余るんだ」

だからこそ、他ならぬこの手で破壊することを強要されるのだ。
 
僕が決して、己の罪を忘れないように。

もっと早く、このことに気づけば良かった。

スクルトを殺してしまう前に、もっと早く気づけば良かったのに。

「可哀想なスクルト。こんなバケモノに殺されて。僕なんかと出会わなければ、彼女は死なずに済んだのに」

僕と出会ってしまったせいで、僕の隣に居たせいで、殺される羽目になった。

怖かっただろうに。痛かっただろうに。

さぞや無念だったろうに。

「スクルトの顔は、深い憎しみと怒りに染まっていた。…僕を恨んで死んでいったんだ」

「…」

「僕なんかと一緒にいなければ良かったって、そう思いながら…」

あんな思いをするくらいなら。

この世で一番大切な人を、自分の手にかけるくらいなら。

…ずっと孤独なまま、誰からも石を投げられ、唾を吐きかけられて生きるべきだった。

そうすれば、誰も死なずに済んだ。

…僕だってそうだ。

最初から、愛なんて、居場所なんて知らなければ。

この世にあれほど、心安らぐ場所があるなんて知らなければ。

…それらを全て失った後、胸を灼くほどの絶望感に襲われずに済んだのに。





「…だから、僕は絶対に幸せになっちゃいけない。バケモノにそんな権利はないんだ」

いずれ自分の手で壊してしまう幸福なら、いっそ最初から、不幸を押し付けられていた方がマシだ。

自分の意志で生きるなんてとんでもない。

獣は大人しく、鎖に繋げられ、鞭で打たれるべき。

だからこそ僕は、アーリヤット皇国の皇王に、顎で使われる立場に甘んじているのだ。

…もう決して、二度と、身に余る幸福なんて望まずに生きられるように。