初めて乗るバスに揺られ、停留所に降りてからはひたすら歩く。周りには、立派な日本家屋の屋敷もあれば、欧州を連想させる洋館もあった。

「ここが、東条家の屋敷……」

地図を頼りに進んでいた珠彦は、目の前に現れた屋敷に言葉を失う。他の屋敷も立派だが、珠彦が奉公する東条家はその中でも一際立派だった。

大きな門の向こうには、広々とした庭が広がっており、立派な日本庭園のある歴史を感じる和風の屋敷と、赤い屋根に白い壁が可愛らしい洋館と二つの建物が珠彦を出迎える。それに圧倒されつつ、珠彦は門の近くで掃除をしている女性使用人に声をかけた。

「すみません、今日からここで奉公させていただく者ですが……」

「ああ、話は聞いています。どうぞこちらへ」

女性使用人に連れられ、珠彦は門の中へと足を踏み入れる。奉公一日目が幕を開ける。珠彦は緊張に手を震わせつつ、女性使用人の後ろをついて行く。

「あっ、ごめんなさい。ちょっとここで待ってて」

洋館の中に入る前、女性使用人はそう言って小走りで和風の屋敷の方へ行ってしまう。残された珠彦は、緊張を紛らわせるように庭の方に目を向けた。刹那、まるで時が止まってしまったかのように目の前の景色に目が離せなくなる。