HAPPY VALENTINE

私がそう言うと、伊織は一瞬にしてどこか不安そうな顔を浮かべる。そして、私の両肩を強く掴んだ。

「お前、騙されてるんじゃない?絶対そのイケメンに揶揄われているだけだって!そんなに映画行きたいなら、俺と行けばいいじゃん」

「伊織と一緒じゃ、いつまで経っても彼氏できないじゃん!私が誰と行こうと勝手でしょ!?」

遊星さんのこと、何も知らないくせに勝手なことばっかり言ってムカつく!遊星さんはそんな人じゃないもん!

私はマッチングアプリを開いて、昨日のやり取りを見て怒りを鎮めることにした。



そして、ついにバレンタイン当日。この日まで、遊星さんとは毎日やり取りをして、「会いたい」という気持ちが膨らんでいる。

この日のために美容室に行って、エステにも行って、新しいワンピースも買った。そして、私の手には遊星さんに渡すチョコレートがある。何を作ろうかたくさん悩んで、ブラウニーを作った。

駅前で十時に待ち合わせ。私はわくわくしながら駅へと向かう。でも、遊星さんはまだ来ていない。

(まあ、まだ待ち合わせの十五分前だしね)

もう駅前にいること、そして今日の服装を遊星さんに教え、私は彼が来るのを待った。

駅前で待ち合わせをしているのは、私だけじゃない。デートの約束をしたのか、十人ほどの人がスマホを片手に持っている。一人、また一人と相手を見つけ、切符を買ってホームの中へと消えていく。

スマホをチラリと見る。時間はもう十一時。遊星さんはまだ来ない。というか、メッセージも来ていない。