◆(精神世界Ⅲ)◆

「――ご苦労様」
「……あ」

 気付くとまた、ステイシアの顔が、闇の中で寝転がった紙安を覗き込んでいた。

 さっさと助けに入れなかったことを怒られる。
 そう思ったけれど、意外なことに彼女の態度はいつもと違った。
 なんともいえない不安げで寂しそうな、らしくないものだった。

「……すみませんでした。リューグを、助けられなくて」
「仕方ないわよ。どうせお兄様は、あたしが説得しても話なんて聞いてくれなさそうだし……。そもそも、本当のお兄様じゃなかったんだものね――」

 ステイシアは、立ち上がると後ろ手を組んで背中を向ける。
 彼女は今、どんな気持ちなのだろう。
 自分が、兄の仇とも言える人物の娘なのだと聞いて。

 でもこれだけは言える。
 絶対に、リューグはステイシアを憎んだりはしていなかったと。