その場に膝を突き、カイラスはやり場のない気持ちを床にぶつけた。
 だがその言葉にリューグからもたらされた回答は意外なものだった。

「お前の兄は生きている……」
「なんだと……?」

 リューグが生気を失った顔を上げる。

「俺の邪魔をされぬよう、よく背格好の似た別人の死体を用意させた……。本物は記憶を忘れさせ、王国の辺境のカーフという村で暮らしているよ。俺が死ねばその術もおそらく解けるだろう」
「ほ、本当に、生きて……いるのか?」

 身体を横たえられたのだろうか。
 紙安の目はもう見えない。
 リューグの声が高いところから聞こえてくる。

「ステイシアまで失うとはな……。俺は一体何のためにこんなことをしていたのか。……さあ、やれ。お前たちがやらないなら、俺はこのまま暗黒石を起動し、お前らごと一帯を道連れにする。……もう、終わりにしてくれ」
「――――――」
「――――」

 懸命に意識を保とうと念じたけれど、後は聞こえなかった。
 その辺りで紙安の魂はステイシアの身体を離れてしまったのかもしれない。
 徐々に視界の光が消え……心地よい暗闇が身体をくるむ気配がしたから……。