(あの子は)

 フード付きのマントで顔を隠してはいた。
 でもそれは間違いなく、紙安に協力してロゼを苛めていた人物だ。

 悪事に加担したことがバレていづらくなったか、ずっと学園を休んでいたはず。
 その彼女が、たった今紙安を背中から刺して逃げた。

「……っぅ! なんで……よっ! なんでこんなことになるのよっ! 私、ちゃんとやったじゃない! おかしいよ……」

 力が抜け、俯せになった体からじわじわと染み出した血が、石畳に沁みてゆく。

「おい……誰か、刺されてる!」
「キャァァァァッ!!」
 
 死の恐怖と痛み、周囲の住民の絶叫。
 紙安は今パニックに陥っていた。
 しかしそれさえも、少しずつぼんやりとしたものに変わり、全ての音が耳を塞ぐように遠ざかっていく。

「こんな……こん……な、終わり、かた……」

 そのまま紙安は、自らの身体から噴き出した温かい血の海に抱かれて眠った。