といっても現実のアイドルとかにお金を貢ぐのではない。
 彼女の押し相手はすべて二次元。

 画面の中、非現実の美しく凛々しい、時には意外な一面を見せる彼ら。
 紙安の生きがいはそこにしかなく、少ない給料を節約し、日々これぞと思った人物のグッズを買い漁っている。

 休みはそれに埋もれて鋭気を補充し、仕事に戻るの繰り返し。
 先の見えない生活。
 でも彼女は幸せだった。

 どうせ、人生一度きりだ。
 親や周りはやれ結婚だの、スキルアップだの真っ当な生活を送れと諭すけれど。
 紙安としては世間体より自分の好きなものに囲まれて人生を送りたい。

 幸せだからいいんだ。
 言い訳の様に自分に言い聞かせ、彼女は今日も買い物袋片手に家路をたどる。

「……ふんふふ~ん、っふんふんふふ~! 楽しみだなぁ~! 『輝石(きせき)()ぶ大地』のリューグ回!」

 本日の紙安はご機嫌だった。
 明日は彼女の最推しであるキャラに焦点を当てた、あるゲームのDLチャプターの配信日だ。