「失礼致します。リューグ様、そろそろステイシア様のお支度をさせていただきたく」
「そうだな。さあ、いつまでも子供のようなことをしていないで。新しい場所に行っても頑張るんだよ。可愛いステイシア」
(ああ……)

 言葉も返せず伸ばした紙安の手をリューグはそっと押さえ立ち上がると、背中を返し去って行った。腕の中からすり抜けた幸せに浸っていると、女性たちから遠慮がちな声が掛かる。

「では、お支度をさせていただきますね」
「……はあ」

 紙安はかろうじてそう答える。

 一体、この夢はどこまでが本当で、いつまで続いてくれるのか。
 何も分からないまま彼女はぼんやりと、別人になった鏡の前の自分を眺めた。