今撫でられているのは、顔の脇まで流れ落ちるような黒髪。
 これは明らかに自分のものではない。
 あまり髪質が良くない紙安は肩口以上に髪を伸ばしたことがない。

 それが今や、紫がかった艶のある黒髪が自分の肩を伝っている。
 寝巻きのそでから見える素肌も、白粉を塗ったかのように白い。
 自分の顔を触ってみると、信じられないくらいにすべすべだ。

(そうだ、ステイシア! リューグには妹がいたんだった!)

 そこでようやく紙安は思い出した。
 物語の中盤で退場してしまうが、彼には性格の悪い妹がいたはずだ。

 主人公のライバルとして立ちはだかるアロウマーク家の娘、ステイシア・アロウマーク。

 彼女は主人公に戦いを挑んで破れ、色々な罪を暴かれて学園を中途退学することになる。

(その妹に、私はなっちゃった……ってこと?)

 そう推測し、思わず紙安はリューグの顔を見上げた。
 するとリューグは美しくもどこか枯れた魅力のある顔で微笑んでくれる。
 それを見た紙安の頭にはもう一つの欲求しかなく、つい行動を起こしてしまった。