「な、なんだこれ……」

 動揺を隠せないという様子だった。それは、私も同じである。だって、現実的にあり得ない話だからだ。

「誰かにからかわれてる……とか?」

「誰かって、誰ですか?」

「いや、分かんないけど。っていうか、本当かどうかはわかんないけどさ」

 ダイニングテーブルに彫られた文字を見て、先輩の左手が私の腰に添えられ、グッと距離が近くなった。

「っ!?せ、先輩……?何をしてるんですか……?」

「何って……キス、しようとしてるんだけど」

「んぇっ!?」

 驚きのあまり、色気の欠片もない声が出てしまった。先輩の綺麗な顔が、どんどん私に近くなってくる。

 え、えぇっ……!?ワケの分からない部屋に入って、先輩とキス!?私、ファーストキスなんですけど……!あぁ、でも憧れの先輩だし……。キスって、好きな人同士でするものじゃない?こんな部屋から出るための手段として、私のファーストキスを奪われるなんてそんな……!

 とにかく、私の頭の中はぐちゃぐちゃだった。そして、私がとった手段は--。


 むにゅり。