「えっ、ダメですか?」

「ごめん、聞き慣れない単語だったから反射で。胸キュンシチュエーションって?何すんの?」

「……良いんですか、おねだりしても」

 思わず、ゴクリと生唾を飲み込んだ。今日は、誰の目を気にしなくて良いんだから。

 男子に色恋関係の話をするのなんて初めてだから、手に汗を握る思いで顔がこわばった。どうやら、私の緊張が伝わったようで先輩の顔も引きつっていた。

「俺にできることなら、良いよ」

「ありがとうございます……!壁ドン、見つ合い、頭ポンポン、バックハグ、顎クイをお願いしたいのですが……!」

「え?ごめん、何て?」

 誰もが、このシチュエーションを妄想したことがあるのではないだろうか。少女漫画でも、ドラマでも胸キュンシチュエーションとして太鼓判を押されるであろう行為。熱量からつい早口になってしまうと、先輩が眉間にシワを寄せて険しい顔をした。

「えっと、それじゃあ……1つずつ説明していきますので、良いですか?」

 私の意志によって、先輩が思いのまま動いてくれるということに謎のなにかが芽生えそうになった。