理王の両頬を手で添えて、自分の顔をゆっくりと近づける。
柔らかい感触を覚えてすぐに唇を離す。
「こ、これでいいでしょ!?」
「下手くそ。やっぱり恋愛経験ねえだろ?」
「は、はあ!?なんで悪口言われなきゃなのよ!」
ほんとにムカつく!
しゃっくりはさっきから止まらないし、理王といると自分が自分じゃないみたいに感じる時がある。
火照った顔を手で仰いで落ち着かせていると、大きな手が私の頭を軽くぽんと叩く。
「ま、約束は約束だから今日はもうなんもしねえよ。
あと、なんか俺に頼み事あるじゃないのか?」
「え?どうしてそれを?」
「夕飯食べる時もずっとそわそわしてたから。
気分がいい。今の俺なら頼みを聞いてやらないこともない」
キリッとした顔で言われるのはちょっと腹立つけど、でもいつも意地悪ばかりなのにこーゆーところずるいと思う。
「明日の放課後、初めてできた友達と寄り道したい」
「何時に帰ってくるかと、場所を教えれば許す」
「……いいの?」
渋られるかと思ったけど、ほんとに気分がいいらしくすぐに了承を得られそう。
まず、気分で人を振り回さないでほしいけど。
「約束をちゃんと守るならな」
「理王、ありがとう!」
本当に嬉しくて、いつもの友達に向けている笑顔を彼に向けてから、るんるんで私は自分の部屋へと戻った。
「不意にあの笑顔はずりぃ…っ」
そんな彼の声は私に聞こえなかった。


