「ごめん、お祖母ちゃん……心配かけて」

「いいの、いいのよ……ケガしてないなら、それでいいの」


 蝶子さんの震える声が聞こえる。とてもじゃないけど、顔なんて見られなくてうつむいてしまう。

 蝶子さんはかまわずシワだらけの手をのばして、私をきつく抱きしめた。初めて会ったときのように。


「貴女が元気なら、それが一番よ、ね?」


 ふわりといい香りがする。上着越しでもわかるほっそりした身体に、ますます申し訳なさが募っていく。


「なんだか逆だね?」


 場違いなほど明るい声が響いた。

 蝶子さんと2人して幌延さんを見ると、クスクスと笑っている。


「祖母ちゃんが転びそうになって、姉さんが心配するのが普通なのに」

「それはそうね……」


 蝶子さんもおかしくなったらしく、ころころと笑い声をあげた。


「お祖母ちゃん、もうケガしなくていいように……手、つないで?」


 私が恥じらいながら手を出すと、蝶子さんは満面の笑みを浮かべ、スティックを幌延さんに預けて手をつないでくれた。
 長くて冷たい指が、手のひらや手の甲をおおう。


「3人一緒に行きましょう!」


 蝶子さんの宣言に、私と幌延さんは目だけでうなずいた。そのままゆっくりと足を進める。

 私は足下を見ながら歩いた。熱くなる頬が、幌延さんにバレないようにと祈りながら。