もっとドキドキさせて


「怜、ちょっと来なさい」

話が出たのは突然だった。

お嬢様とかくれんぼをし終わって、長い廊下を歩いていたときのこと。
お嬢様のお父様に突然、呼び出された。

なにかよくないことをしてしまったかと思い、不安になりながら過去の記憶を振り返る。

「可恋と少し距離を置いてほしいんだ」

最初は何を言っているのかよく分からなかった。

距離を置く…?

「可恋もそろそろ年頃だ。まだ早いかもしれないが、徐々にお見合いの話も出てくるかもしれない。だから、君との距離が近いと縁談に影響してしまうかもしれない」

お父様は悪気がないかのように淡々と俺に告げた。

縁談は、家の存続に関わる重大なものだ。
そんな重大なことに悪い影響を与えてしまったら、お嬢様自身の将来が暗くなってしまうかもしれない。

お嬢様のことが好きだった。
ずっと一緒にいたかった。
だけど、未来のお嬢様が泣いている姿は見たくない。

「かしこまりました」
俺は静かに返事をした。

今後は、お嬢様に笑顔を向けないように。
個人的なことは話さないように。
なるべく事務的な執事に見られるように。

自分はお嬢様にどう見られても構わない。
お嬢様を守りたい一心だった。




お嬢様と距離を置くのは、初めは辛かった。

「怜!一緒にあそぼ…」

「申し訳ありません。お仕事が残っておりますから…」

初めて、お嬢様との遊びを断ったことを今でも覚えている。
泣きそうな顔で困惑していた。

今すぐ「違うんだ」と言って誤解を解きたかった。
けど、事実を知ったらお嬢様は激怒して、お父様の言付けを破るだろう。

自分と関わることで「縁談に影響しないのか?」


…影響がないとは言い切れなかった。

うぬぼれかもしれないが、俺とお嬢様はかなり親密に時を過ごしていた。
それは、周りの人を寄せ付けないほどに。
この関係が、男女の関係に発展しないとは言い切れなかった。
いや、自分は男女の関係を望んでいた。

そんな人間がお嬢様と深く関わっていいわけがない。

頼むから、自分以外の人と仲良くなってくれ。
幸せにしてくれる人と出会ってくれ。

一緒にいたい気持ちと、お嬢様の相手は自分ではだめなんだ、という気持ちが相反する。
この気持ちを悟られないように、とにかくお嬢様には一定の距離を保つように意識していた。






そんな理性が、お嬢様の言動1つに破られる。