爽やか王子様が今日も私を口説いてくる。

「教室いこっか」

「うん!」

人がまばらになってきて、私たちもそろそろ移動するか、と思って私はりりに声をかけた。 
そして私は、教室へ向かおうと歩き出して…



ーとんっ。

誰かと、ぶつかってしまった。



「あっ…」

幸いそこまで勢いよくではなかったから、軽くよろめくぐらいだった。
けれど次の瞬間、ぐっ、と、私の身体は力強い腕に支えられた。

「っあ、ありがとうございます…」

ぎゅ、と体温がわかるぐらいの密着。
男の子への免疫がゼロな私からしたら、思わず赤面してしまいそうだった。
こんな時でもあまり感情が出ない自分の表情筋を褒めたいと思う。

「大丈夫?」

耳元で、少し低めのテノールの声がした。思わずドキッ、と心臓が高鳴る。

男の子の声をこんなに近くで聞いたことなんてないし、いわゆるイケボ、と言う分類に入るであろう声色だったから。

って、私、いつまでくっついてるの。

はっと我に帰り、慌てて男の子と距離をとった。

「は、はい、すみませ…」

そこで顔を上げた私は、思わず、男の子の顔を見つめてしまった。

その子が、今まで見たことのないぐらい綺麗な子だったから。



明るめの茶髪は、染めていると言うよりは天然のそれ。
綺麗な薄茶色の瞳は長いまつげに縁取られ、目尻が少し下がっているからか、優しげな印象だった。
鼻は高く、薄く色づいた形のいい唇に、キリッとした眉。

神が寸分の狂いもなく作った、なんて言葉をよく小説で見るけど、まさにこの顔がそうなんじゃないかと思う。

すらっとしているから細身の印象を受けるけど、しっかりと筋肉がついていることはさっき支えられたことで分かった。

何かのスポーツをやってそう。
偏見だけどサッカーとか、なんかそういう爽やかそうなやつ。

それにしても、なんだか王子様みたいな人だな。ものすごいモテそう。

そう思ったところで、また我に返った。

私、初対面の人を見つめすぎだ。失礼な人になってる。

「あの、本当にありがとうございました。助かりました」

頭を下げて礼を言う。
ニコッと笑った彼は「怪我がなくて良かったよ」と優しく言った。

さらっとそういうことが言えるとこも、本当に王子様みたい。

「じゃあね、篠原さん」

「…え?」

彼は片手を上げてから、くるりと回って歩き出す。

なんで、私の名前…。

そう問いかけるよりも先に、男の子は去っていってしまった。