……一回この男を殴ってくれる人いないかな。

「ああ、でも」

思い出した様に声を上げた一条日陽は、ニコリと笑う。

「『私たち2人での時間も貰うから!』とも言われてるから、ずっと君たちの時間にお邪魔するわけでもないよ」

「……そう」

「まあ、あわよくば…」

そこで一条日陽は、一回言葉を切って、前の座席に寄りかかった。下から覗き込む様に、私の目を見る。

「この自由行動(イベント)で、俺に落ちてもらいたいけど…ね」

低く、少し掠れた声音。
とくり、心臓が跳ねた気がした。

さっきまで聞こえてた音が全て消え去って、その声だけが、私の耳に届いてきた。

(あ、このかんじ)

既視感というか、前もこんなふうになった気がする。心臓が、今までにないぐらいぎゅっ、って。

食い入る様に、この人を見つめてしまう。

でもそれ以上になんか、言われっぱなしが鼻について。

「そう、頑張って」

こう言ってしまう私は、可愛げのない女なのだろう。

「ねえそこは照れてよ?ていうか顔がものすごく興味なさそうなんだけど」

「………」

「えっ、ちょっ、無視は良くないでしょ」

隣でとやかくいう男からふいっと顔を背け、窓の外を眺めた。

強い日差しのせいで赤くなった顔…そう、太陽のせいで熱いこの顔を、見られたくなかったから。