そんな思いを胸に、ぐっと彼を見上げた。

一条日陽はそれを知ってか知らずか、クスリと笑う。そして、口を開いた。

「葛西さん、取引しない?」

「はい?」

想定外のことに、思わずキョトンとしてしまった。しかし目の前の男は構わず話し続ける。

「来月の修学旅行の自由行動、美月ちゃんと葛西さん2人で行動するんでしょ?」

「そうだけど。まさかそれに一条くんを入れてくれなんて言わないよね?」

「うん、そう言いにきた」

「お断り!」

あっけからんと言った彼を一刀両断。誰が美月とのデートを邪魔させるんだ、絶対お断りだ。

キッ、と睨みつけるりりに、彼はそっかあ、と眉を下げた。が、不意にでもさ、とつぶやく。

「結構いい交換条件だと思うよ、葛西さんにとっても。午後のちょっとだけでいいからさ、一緒に居させて欲しいんだよね」

そのまま彼はスッと近づいてきて、身を屈める。

「それに、これを許してくれたら…」


赤羽も連れてくけど?


思わずピタリ、と動きが止まった。
その言葉は、悪魔の囁きだった。至近距離で、一条日陽の目と目が合う。彼は余裕そうに、うっすら笑みを浮かべていた。
りりは少し、考える。

けれどふっ、と思わず笑みが溢れてしまった。
考えるまでもなく、りりの答えは決まっているから。

りりは答えようと口を開いた。

「一条くん、その条件………」