爽やか王子様が今日も私を口説いてくる。

落ち着いて、私。
静かに息を吐いて、深呼吸。
ふう、と息をつく。

心臓のざわめきが治った気がする。
よし、これでだいぶ落ち着いた。そう、私は今、落ち着いて…



ない。



どうしよう、どうすればいい?
まだ心臓がバクバク言ってる。
恋愛初心者にこの男はなんてこと言ってくれたんだ。

そうやって色々考えてる私だったから、

「想像以上だな…」

なんて隣から聞こえてくる声には、一切気が付かなかった。



何度も深呼吸して、心の中はともかく、表情筋は落ち着いてくれた。

その自慢の無表情で、私は一条日陽に向き直る。

「一条くん、私をからかうのはやめてくれる?」

冷静に覚悟を決めて行ったのに、なぜか彼は私に顔を見せまいとでもする様に反対を向いている。

いやこいつ、なんで私から顔を背けてるわけ…あ、こっち向いた。

彼はやっぱり笑顔だった。
普段はなんとも思わない、余裕そうなその顔が今はとてもとてもうざったらしい。

「からかってないよ、本気」

「嘘つけ」

思わず反射で突っ込んでしまった。
いつもはあまり話さない私がそんな様子だから、一条は驚いたみたいだった。

「素?」

「だったら何?」

こいつに取り繕うのはやめよう、と思ってじろりと睨みつけながら言い返す。

が。

「素もかわいいね」

いやこいつ何言ってんだ。

また素で突っ込みそうになって、今度は堪えた。

その代わりさらにジト目になったであろう私に、彼はふっ、と笑う。

余裕そうで、やっぱりどこか獲物を狙うような、危険な笑み。

それを見て、思った。

私、この顔苦手かも。