「ねえ、美月(みづき)ちゃん」

「なに、一条くん」

くるりと振り返ろうとすれば、ちゅっ、いう軽いリップ音が響いた。
そして、私の頬に柔らかい感触が。
 
「あ、ごめん。顔近くさせすぎちゃった」

絶対に心の底から謝っていないキラキラ笑顔で、甘いマスクで、ごめんね?と謝ってくる男。

普通の女子だったらどうするのだろう。

赤面する?気絶する?ラッキー、なんて思ったりする?
私はどれも違う。

これは不本意ながら、“よくあること”なのだ。
だから…

「で、なに?一条くん」

「今日も安定のスルーだね…」

私は今日も、華麗にかわすのだ。

「その反応、流石の俺でも傷つくんですけど?」

「そう、お大事に」

「絶対思ってないでしょ」

まあ、そんなところも好きなんだけどね。そう言って笑う彼との出会いは、1ヶ月ほど前のことだ。