「あなたたち二人は、きっとどうしてもそうなんでしょうね」
母のこぼした言葉に首を傾げる。
二人とはどの二人のことだろう。
急にライブに出ると言い出した私と沢里のことかもしれないし、音楽から逃れられない私と柾輝くんのことのようにも聞こえる。
最近母はピアノを弾いていても文句を言わなくなった。
物言いにも以前のような棘がない気がする。
今日もライブに行く私のために早起きをしてご飯を用意してくれていた。
私が沢里のおかげで変われたように、母も少しずつ変わっているのかもしれない。
「いってらっしゃい」
穏やかな朝。思わぬ母の後押しを受けて、私は出発する。
「いってきます」
きっと今日は私の人生で一番あつい日になるだろう。
すでに太陽が待ちきれないとでも言うように輝き始めていた。
