「『今日の作曲はここまで』っと」
SNSで作曲工程を生配信する時は手元だけをカメラで写し、とにかく絶対に顔が映らないようにしている。
もう終わっちゃうの? というフォロワーのコメントに苦笑して、私は配信を停止した。
ヘッドホンの隙間から私を呼ぶ声が聞こえる。
「凛夏ちゃん、もうご飯の時間だよ」
「あ……はい、透流さん」
「ピアノばかり弾いてるけど勉強は大丈夫? 来年受験なんだから、成績下がったらお母さんにぐちぐち言われるよ」
「はい、分かってます。勉強も頑張ります」
自室のドアを開けた先に立っていた血の繋がらない義兄――透流さんは眼鏡の細いフレームに触れながら軽く息を吐く。
「ならいいんだけど」
優秀で勤勉な透流さんは私の勉強時間が少ないことが気に入らないようだ。成績は悪くはないのに、努力が見えないと釘を刺されてしまう。
私は透流さんが、苦手だ。悪い人ではないのだけれど、少し神経質で怖い。