「凛夏ちゃん、おはよう。起きてる?」
「はい、おはようございます。透流さん」
ドア越しの透流さんに慌ててあいさつをする。
そのままドアノブに手をかけるが、自分のパジャマ姿を思い出し思いとどまった。
「今日学校が終わったら連絡くれる? 勉強しよう」
「あ、はい……分かりました」
「うん、それじゃあ」
「今はそれどころじゃないんだよ!! 空気読め空気!!」と叫びまわりたい気持ちをぐっと抑え、身支度に取りかかった。
のたのたと姿見の前でパジャマから制服に着替える。
地元では地味可愛いと言われている紺のセーラー服に、白いスカーフ。
人によっては校則違反ぎりぎりまで丈をアレンジしたりもしているが、私は膝丈が一番しっくりくる。
【linK】の時は髪をおろしているが、学校生活を送るならポニーテールが楽だ。
そんなどこにでもいる女子高校生の姿にこだわる理由は、単に目立ちたくないからの一言に尽きる。
誰も【linK】と凛夏を紐づけられないように。
しかし昨日はあの転校生のせいでかなり注目を浴びてしまった。
今日は波もたたない沼で静かに息を潜めるように過ごそう。多少周りに言われるかもしれないけれど、黙ってやり過ごそう。
そんな決意とともに登校した私を待っていたのは、校門前で仁王立ちする今一番見たくない顔だった。