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トイレに駆け込んだものの、休日ショッピングモールの女子トイレは長蛇の列。
中で一体なにをしているんだ!
と、怒鳴ってしまいたくなるほどの混雑だ。

とにかく水で顔を洗いたいあたしはグイグイと人ごみをかき分けて、手洗い場までやってきた。
しかし、手洗い場はお化粧直しで忙しいご婦人でこれまたごった返している。

そんなにファンデーションを塗ったって土台が悪いから変化なんてねぇよ!!
なんて心の中で暴言を吐きながらも、ニコニコと微笑んでその後ろに並んだ。
血はいまだドクドクと流れていて、血だまりができてしまいそうだ。

するとそんな様子に気がついたご婦人の1人が「ヒッ!」と小さく悲鳴を上げ、その拍子に塗りかけの口紅が鼻にスポッと入ってしまった。

口紅、ナイスゴール!
なんて思っているとご婦人は慌てふためきながらトイレを出て行ってしまった。

これはラッキー。
あたしは空いたスペースに体を滑り込ませ、鏡に自分の顔を映した。

うわっ。
これは逃げられてもおかしくないかも。
あたしの顔は鼻から下が血まみれになっていて、パッと見事故死した幽霊に見えなくもない。

あたしはバッグからティッシュを取り出してキュキュッと鼻に突っ込んだ。
次にハンカチを取り出し、花柄のお気に入りに「ご愁傷様」と、手を合わせてから水を含ませ、顔をふいた。

お気に入りの白いハンカチはあっという間に真っ赤に染まって行く。
「あーあ。あのイケメンのせいでソフトクリームもハンカチも台無しだわ」
そう言い、落ちたファンデーションを塗りなおす。

そうこうしている間に鼻血は止まったみたいで、あたしはホッとしてトイレを出た。
「カヤ、大丈夫?」

トイレを出てすぐに心配そうに声をかけてくれたのは、あたし、松井カヤ(マツイ カヤ)の愛しのダーリン。
さっきのイケメン君と並んでみても引けを取らない美形彼氏。