コンサートの本番が始まってからは、自分が今どこにいるのかもわからなくなるくらいのあわただしさだった。
「松井ちゃん次の衣装の準備して!」
「はい!」

「松井ちゃん靴違う! 黒いやつ!」
「は、はい!」
「松井ちゃんもうちょっと早く動いて!」

「はいぃぃぃ!!」
まさに馬車馬のようにあっちこっちへと動きまわり、あっという間に数曲が終了した。
「これから先は着替えに少し時間が開くから。トイレとか行きたかったら今のうちに行っておいでね」

「はい……」
そう言われた時にはもうヘトヘトで、めまぐるしく行き飼うスタッフに目が回っていた。

あたしは教えてもらった長椅子に座り、「はぁぁ疲れたぁぁ」と、悲鳴に近い声をあげた。
「お疲れさま、はいお茶」
スッと差し出されたペットボトルのお茶。

「あ、ありがとう」
と、自然と手を伸ばして受け取ってからその声に視線を上げた。
「北見君!?」
そこに座っていたのはスタッフではなく北見君で、あたしは驚いて立ち上がった。
「あはは。驚きすぎだって」