と、兄は本当にしかたなさそうにナッツをジャンの口に放り込んで、ジャンの頭をぐりぐり撫でて。そんな時間が好きだったのに。

(……あの時、兄上の分まで奪うのではなかったな)

 おりに触れて思い出すのは、『しかたないな』と笑う兄の顔。よく考えれば、兄だってまだ若かったのにあんな顔ばかりさせるんじゃなかった。

 年齢も十離れていたし、早くに両親を失った兄にとって、ジャンは弟である以上に守らねばならない存在だったのだろう。今にして思えば、いつでも年齢よりも落ち着いた風情だった気がする。

『いいか、俺の一番の仕事は、辺境伯様とこの地をお守りすることだ。お前にも、そうなってほしい』

 何度もそう言い聞かされた。辺境伯であるロドリゴを守り、この地に暮らす人々を守ることだ、と。

 ――兄が亡くなって二十年。

 今年、三十になった。兄が亡くなった年齢は、とっくに越えてしまっている。