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「……は? 今何て?」



すっかり定番となった野菜の味噌汁とおにぎりというシンプルな朝食。

間の抜けた声で聞き返さずにいられないことを鷹司から言われたのは、それらをさっそく食べようと手を伸ばした瞬間のことだった。



「ですから、現在バレンタインデーまであと一ヶ月を切っております」


「ええ。この国では製菓会社の陰謀によって女子がチョコレートを渡す日と化した、バレンタイン司祭の処刑日まで、確かにもう一ヶ月もないわね」


「何故お嬢様がそのような雑学をご存知なのかについて触れた方がよろしいですか?」


「いいえ結構よ。続けなさい」




私は言いながらごくりと唾を飲み込んだ。先ほどのものは聞き間違いだったのかもしれないという期待は抱きつつ。


鷹司は「では」と軽く咳払いして、まっすぐ私を見た。




「お嬢様には、バレンタインチョコを柳沢様に渡して頂きます。愛される悪役令嬢になるための、新たなミッションでございます」




……聞き間違いではなかったみたいだ。