腹黒執事は、悪役なお嬢様への愛が強め




あと最近気付いたことだけど、私は鷹司に髪を触られているこの時間が嫌いじゃない。

美容師に触られるのすらそんなに好きになれないのに、相手が鷹司だとどこか落ち着く。不思議なものだ。

ウエーブがかった髪を下ろしてカチューシャを付けるといういつも通りのスタイルが鏡に映り、私は満足して笑みを浮かべた。




「やっぱり執事辞めたら美容院に就職しなさいよ。指名してあげるから」


「考えておきましょう。お嬢様の髪に合法的に触れられる職業というのは大変魅力的です」


「それ言わなきゃ完璧なのにね」




……この男に触れられて落ち着ける要素とか皆無のはずなのに。

髪型を綺麗に仕上げてくれるという安心感があるから落ち着けるのよね。……そういうことにしておこう。



私に限った話ではないと思うけれど、出かける前に髪型が上手く決まれば、その日の機嫌はいつもの三割増しで良くなる。

上機嫌のまま車に乗り込んで、運転手に言った。




「店の前までは行かなくていいわ。ちょっと歩きたい気分なの」