彼のことを知っているということは、少なくとも執事コスプレで高校に忍び込んだ変質者という可能性は低そうだ。私の周辺を調べまくっているストーカーなら話は別だけど。
「八坂さんは岸井家に仕えていますが、わたくしは先ほど申した通り、お嬢様専属の世話係として雇われました。旦那様からお聞きになっていませんか?」
「……聞いてないわ。お父様と最後に話をしたのは先月だし」
話したときのことは思い出したくもないけれど、少なくとも新しい執事を雇うという話はなかったはずだ。
「はあ……娘に専属執事だなんて、岸井家もずいぶん偉くなったものねぇ」
ため息をつかずにいられない。
某大企業を経営する岸井家。
私の父が一代で作り上げ大きくした、歴史の浅い家。社交の場に出れば、成金だのなんだの散々陰口を叩かれていることは私も知っている。
「それで? あなたはここで何をしていたわけ?」
「もちろん、お嬢様をお迎えに上がったのですよ」



