耳を撫でる吐息と、無駄に色気のある声。

顔が一気に熱くなっていく。

そっと視線を動かせば、鷹司の綺麗な顔が、どことなく不安そうな色を浮かべている気がした。

それを見ているうちに、上手く言葉が出なくなってくる。




「ば、馬鹿なこと言ってないで帰るわよ!」




それでもどうにかそう言って、鷹司から離れようと押し返す。

彼はどこか名残惜しそうながらも、握っていた私の手をそっと離してくれた。



……あれ、そういえば。

私は、ほんの少し前にちらりと覚えた感覚を思い出す。


奏多くんが私から手作りチョコをもらうと勘違いして、嫉妬したとか言いながら弱った表情を見せた鷹司に……少しドキリとした。

何で?




「お嬢様? どうかなさいましたか?」


「え? いえ、何でもないわ」




立ち止まったまま動かない私を見て、不思議そうに言う鷹司。

私は、妙な考えを打ち消そうと首を振った。


何となく、これ以上考えるのは危険な気がした。