——— 深端に戻って来ないか?

——— もう、水惟と恋愛するつもりは無い

パーティーから数日、水惟の頭の中では蒼士の二つの言葉が繰り返しループしていた。
とくに深端への誘いは、どう受け止めれば良いのかよくわからない。

(…だって、辞めてくれって言ったのは自分じゃない…)

(ん…?)
水惟の鼻を不快な匂いが刺激する。

「わっ!」

ボーっとしながら作っていたチキンライスが焦げ始めていた。

(あぶない…ギリセーフ…!)
水惟はそれをオムライスにすると、一人で夕飯を食べ始めた。

(フラれたのはもう…仕方ないって思うしかないけど…)

(また同じ会社で働くってこと…?部署が違うとはいえ…)

——— …あ、見て、深山さんと…
——— …えー?別れてるって聞いたけど…

(深端に戻ったりしたら、ああやって噂のネタにされるだけなんじゃないのかなぁ)

(ああ、そっか…むこうはヘーキなんだ…)

(“嫌いじゃない”程度で、デザイナーとして以外に私に関心がないんだから…)

(たしかにこんな…料理もまともにできないヤツ、嫌だよね。)
水惟は少し焦げた味のするオムライスを口に運んだ。

——— ごめん!すぐにご飯の準備するから…

(え?)
水惟の脳裏に、何かの場面がぼんやりと浮かぶ。

——— いいよ、水惟も疲れてるんだから。デリバリーか…たまには俺が何か作ろうか?
——— でも昨日もできなかったし…他のことも全然ちゃんとできてないし…

(あの頃の…?)
水惟の頭がまた鈍く痛む。

(あの頃も、やっぱりちゃんとできてなかったんだ…)
水惟は自嘲気味に笑った。