水惟がホテルを出ると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。

「あれ?水惟?」

誰かが声をかけてきた。

「…アッシー…」

「まだ帰ってなかったんだ?」
「…うん、ちょっとトラブルで…アッシーは…」

「飽きたから帰ろうかなって思って。」
「そっか…」

「めちゃくちゃ元気ないじゃん。」
啓介は水惟の声が力の無いものだとすぐに気づいた。

「水惟が帰るって出て行った後、深山さんもすぐに追いかけて行ってたけど…」
蒼士の名前に、水惟の肩が小さくビクッと反応する。

「なんかあったんだ。」
「………」

「さっきまであんなに好き好きオーラ出して深山さんのこと見てたのに。」
「…え…」

「バレバレ。」
(………)
水惟は小さく溜息を()いた。

「…ふられちゃった…」

「え…マジ!?」
啓介の意外そうな反応に力無く笑う。

「私のことは…大きな広告賞を獲ったデザイナーとしてしか見てなかったみたい。ただの仕事相手ってこと。」
「んー…そんな感じじゃなかったけどな〜」
啓介は不思議そうに眉を顰めて首を傾げる。

「…でも…私とは…」
水惟は言葉を詰まらせた。

「もう…恋愛する気無いって…」
堪えていた涙が目から溢れて、水惟は泣き出した。

啓介は泣いている水惟をじっとみつめた。

「でも…当たり前だよね、もう別れてるんだから…」
「…ふーん…じゃあさ」

———グイッ

啓介が水惟を抱き寄せた。