二人は電車を降りてオフィス街に降り立った。

「懐かしい?」
周りを見回す水惟に洸が聞いた。

「………ん…うん…少し」

大小さまざまな広告代理店や印刷会社が立ち並ぶこの街は、仕事で用事が無い限りはまず訪れることがない。
深端からの案件で頻繁に訪れている洸に対して、水惟がこの街を訪れるのは深端退職以来4年振りだ。
今回の打ち合わせは日曜日を指定されたため、水惟が通っていた平日とは人の数は比べものにならないくらい少ない。

——— 今日はご飯食べて帰ろうか

水惟の脳裏に男性の声が()ぎる。

(………)
水惟は何かを振り払うように、首を横に振った。

「大丈夫か?」
洸が心配そうな苦笑いで言う。
「全然大丈夫!行こ。」

深端グラフィックス本社
周りのオフィスビルと比べても圧倒的に大きくて存在感がある。
(4年前までは毎日通ってたのに…)
久しぶりに前に立つと威圧的な建物だ。
事前にメールでもらっていた入館用のQRコードをゲートにかざして、二人は深端本社に足を踏み入れた。

「………」

水惟はビルに入ってから一言も発しないで目的の部屋を目指して歩いている。
日曜なので誰ともすれ違わないのも、言葉を発しない理由の一つだ。

「本当に大丈夫か?無理しなくていいからな。」

「……大丈夫…4年ぶりだから変な感じがしてるだけ…」