「ただいま…」
「おかえり。」
蒼士が帰宅すると、水惟は何事もなかったような顔で出迎えた。

蒼士は水惟を抱き寄せてきつく抱きしめた。

「え、なに…?」
「………」

「蒼士?」

「…なんで、コンペのこと…嘘ついた?」
蒼士の言葉に、水惟の心臓がドクンと脈打った。

「そ…れは…」

「俺ってそんなに頼りない?」
「え…!?ちが…」

水惟は蒼士の腕の中で必死に首を横に振った。
「あれは…私が…私のデータの管理も悪かったから仕方なくて…」

「社内でいろいろ噂されてるって?」
「え…そんなの誰から……氷見さん…?」

「誰からだっていいよ。俺は、水惟から聞きたかった。」
蒼士は水惟の困惑した顔を覗き込んだ。

「なんで言ってくれなかった?」
「………」

「なんでずっと一人で抱え込んでた?」
心配するようにも、責めるようにも聞こえる問いだった。

「………」

「………」

「…言えない…」
水惟がつぶやくように言った。

「………」
「言えるわけない…だって…蒼士が悪いわけじゃないもん…」

「………」
「蒼士は私のために忙しくしてるってわかるし…」
「水惟…」

「わたしが…私がもっと蒼士に相応しければ、誰も何も言わないのに…」
「水惟は悪くないって」

「内緒の頃はこんなんじゃ無かったのに…」
水惟の目から涙が(こぼ)れた。

「水惟」

「こんな風に…蒼士に迷惑とか…心配とかかけちゃうなら—」


「結婚なんてしない方が良かった」