夕日広告賞とは、新聞社が主催する年1回の広告コンクールで、その年に発表された企業広告を表彰する『企業参加部門』と、協賛企業の広告を学生からプロまで広く公募する『一般公募部門』がある。
歴史と権威のあるコンクールなので、広告代理店はもちろん、美術系の学生からデザイン事務所などのプロのデザイナーといった多くのデザイン関係者が注目している。
その夕日広告賞の公募部門で今年、リバースデザインは水惟をADとして制作した作品で賞をとった。

「コピーが活きてて良い広告だったな。イラストがすごく水惟らしかった。」
「…名前で呼ばないでください…」

「夕日広告賞の—」
言葉を無視して話を進める蒼士に、水惟は小さく溜息を()いた。

「ADの名前、藤村 水惟じゃなくてSUIだったよな。」

「………」

「だからADとしての名前は“スイ”だろ?」
「…あれは…」
水惟は言葉を詰まらせた。

「……おかげさまで2回も名字が変わりましたから、名字を名乗るのはやめました。」
ツンとした口調で言った。

「…まぁ…だから、水惟は水惟だよ。みんなが水惟って呼んでるのに俺だけ名字で呼んでたら、逆にいろいろ詮索されるよ。」

(………)

———…はぁ…

水惟は許可も拒否もせずに溜息を()いた。
「好きにすれば?」という呆れを込めた意思表示だった。
蒼士は参ったように眉を下げて笑った。

(本当にどういうつもり?もう二度と会いたくなかったし、関わりたくなかったのに…)

——— イラストがすごく水惟らしかった

昔はよくデザインの感想を言われたような気がする…と、水惟の記憶が蘇る。


——— 良いデザインだね

(…やめてよ)

——— 俺これ好き

(…思い出したくなんかない…)

昔は水惟のデザインを見た蒼士が笑顔になるのが好きだった。


(頭 痛い…)