———ふぅ…

この日も残業していた水惟は溜息を()いた。
時計の針はもう22時を回っている。

「大丈夫?」
一緒に残業していた氷見が心配して声をかけた。

「あ、すみません。ちょっとお腹空いちゃって。」
「最近詰め込みすぎじゃない?」
「いえ、私の今期のデザイン目標予算、きっと全然到達してないですよね。だから大丈夫です。」
深端グラフィックスの若手デザイナーには関わった案件の受注金額がデザイナーとしての仕事量の指標として設定される。

「それは水惟が細かい案件ばっかり受けてるからでしょ?」
「一番下だから当然です。」
「も〜、そんなことないでしょ。」
水惟の考えを理解している氷見はもどかしそうに言った。

「…部長も承認してますから。」
クリエイティブチームは制作部内にあり、氷見や洸のようなADの上に制作部長がいる。
部内の最終的な決定権は部長にあるため、部長が承認していると言われたら氷見もあまり口出しできない。

「こんなに毎日残業してて、深山くんに何か言われない?」
「立て続けに海外出張に行ってるので、もう2週間くらい会ってないです。だから休みの日もヒマだし、家のことは大丈夫です。」
水惟は笑って言った。