数日後
リバースデザイン

「いいじゃん。この3方向で提案書作って深端に提出して。」
水惟が提出したコンセプト案を見て、洸が言った。

järviの広告デザインを始める前にまずはコンセプトの方向性をいくつか示し、どれが良いかクライアントに選んでもらい次にラフを仕上げていく。

水惟は企画書のPDFを作成すると、メールで蒼士と冴子に送信した。
パソコンの画面に表示された【深山 蒼士】の名前にも微かに動揺してしまう。

(…早く慣れなくちゃ…)

その日の夕方、蒼士から返信があった。

【お送りいただいた企画書、わかりやすく方向性の違う提案がされていてとても良いと思います。どの案でいくかはクライアントを含めて話し合いたいので、先方にプレゼンしていただけますか】

水惟が了承の返信をすると、蒼士からすぐにスケジュール確認のメールが届いた。

***

(やっぱり今日も洸さんに同行してもらうべきだったのかな…)

車の後部座席で、窓の外に流れる景色を眺めながら水惟は後悔していた。
järviへプレゼンに訪れるため、水惟は蒼士の運転する車に揺られている。

(…いや、それはダメでしょ…)

プレゼン前の緊張感と、蒼士と二人きりの車内で水惟は息が詰まってしまいそうだった。

「メールにも書いたけど、先方にも事前に資料は送ってあるから。細かい前置きとかはしなくて大丈夫だと思うよ。」
「…はい」
声をかけた蒼士に、水惟は愛想無く答える。

「水惟、緊張してる?」
「………藤村です」
水惟はますます無愛想に言った。

「夕日広告賞、見たよ。」

蒼士が急に話題を変えたので水惟は怪訝な顔をしたが、もちろん運転席の蒼士には見えていない。