「必死ってなんで?うちでやりたいことでもあった?」

蒼士に聞かれ、バックミラーに映る水惟の表情が急に焦りを見せた。
「え!?えっと…その…はい…」

「どこかの企業広告とか?好きなデザイナーと仕事したいとか?」
「えっと…はい、そんな感じ…です」
水惟の答えはどこか歯切れの悪いものだった。

「私は〜生川さんとか氷見(ひみ)さんと一緒にお仕事したいです!」
油井は深端グラフィックス所属の有名デザイナーの名前を得意げに挙げた。

「ふーん…」
当たり前すぎる答えに蒼士は興味がなさそうな反応をした。

「あの…」
「ん?」

「深山さんも…やりたいことがあって深端に入ったんですか…?」
予想外の質問だった。

「バカッ!水惟!」

油井がヒソヒソ声で水惟に耳打ちする。
蒼士には彼女が何を教えているのかわかった。

「深山さんは深端の—」
「えっ!?」
「知らないのなんて水惟くらいよ。」
油井は呆れて言った。

「すみません!失礼な質問をしてしまって!」
水惟は青ざめた顔で謝罪の言葉を口にした。

「べつに失礼じゃないよ。」
蒼士は優しく笑って言った。

「やりたいことか—」

その時、蒼士の口から答えが出ることはなかった。