数日後
「二人は配属の希望は決まってるの?」
車の運転をしながら蒼士が言った。

この日は営業先に新入社員2名ずつが同行することになっていた。
蒼士と同行することになったのは、水惟と油井 美里(あぶらい みさと)で、後部座席に二人並んで座っている。
油井は水惟とは対極にいるような見た目で、小慣れた派手目なメイクに髪はきれいに巻かれている。

「はいっ!ぜ〜ったいクリエイティブに行きたいです!」
油井はハキハキとした明るい声で言った。

「元気いいね。藤村さんは?」
「えっと、私もクリエイティブが希望です。」

「営業人気ないな〜」
蒼士は苦笑いで言った。

「当たり前じゃないですか〜美大から深端に入ったらクリエイティブに行きたいですよ〜!」
(物怖じしないタイプだな。深端っぽい新卒だ。)

「藤村さんもそんな感じ?」
「…私は…どの部署の研修もおもしろかったんですけど…多分、デザインでしか人並みにお役に立てないので…」
水惟らしい不器用な答えだ、と出会って数日の蒼士でさえ思った。

「水惟ってよく深端の試験に受かったよね〜」
ハッキリとした油井の物言いは失礼とも思えたが、深端で生き残っていく社員には珍しくないタイプでもある。

「うん、自分でもそう思う。でもかなり必死に頑張ったから。」
言われ慣れているようで、水惟は自嘲気味に笑って言った。