百合原さんはその言葉の後、私の髪の毛を撫でていく。

「……そうやってからかわれるの、私嫌いです」

「からかってないよ。 本気で言ってるって言っただろ?」

 なんか分からないけど、腹が立つ。からかわれるのは嫌いだし、イヤになる。
 恋愛は必要ないと言っている私に、恋愛をしようと勧めてくるその神経も信じられないし、意味が分からない。

 そしてこの人は、なにを考えているのか分からない。 なにも見えない人だ。
 そんな人にスマホを貸してしまったことでこうなったのは、事実ではあるのだが。 まさかスマホを貸しただけでこんなことになるなんて、誰が予想しただろうか。

「奏音ってさ、まさかファーストキスもまだだったりする?」

「だったらなんですか」

 私はなぜかヤケになっている。それだけは分かる。

「そっか。……まだなのか」

「それ、バカにしてます?」

「いーや、全然。 むしろ、興奮するね」

「はっ!? 気持ち悪いんですけどっ」

 興奮するとか、この人はなに!? 変態なの!?

 かと思ったら、今度は私の身体は百合原さんの方へと引き寄せられる。

「そのファーストキス、俺がもらうから」

「え……?」

 そしてその唇は、いつの間にか重なっていた。