「あるにはあるんだけど、充電が切れてる」

「……そうですか」

 充電が切れてるなら、仕方ないか。などと思っていると、その彼は私に「なあ、アンタにもう一つお願いがあるんだけど」と視線を向けてくる。

「はい? な、なんですか?」

 なんとなく、イヤな予感がした。

「アンタのお願いをなんでも聞くから、スマホの充電器を貸してほしい」

「えっ!」

 イヤな予感は、的中したようだ。

「充電器なら、コンビニにも売ってますよ?」

「コンビニに行くのがめんどくさい」

「はあ?」

 めんどくさい、ですって? 何この人、この人のがめんどくさいんだけど。

「充電器貸してくれたら、なんでも美味いものご馳走してやる。黒毛和牛でも、最高級のステーキでもなんでもご馳走してやるよ」

「く、黒毛……和牛?」

 さ、最高級の……ステーキ? 

「黒毛和牛、食べたいだろ?」

「た、食べたい……」

「じゃあ決まりだな」  

「て、あ、や! ちょっと、待って!」

 私、貸してあげるなんて言ってないのに……!!

「なんだ。早くしてくれ。 家はどこだ」

「ちょっと待ってください! 私、貸してあげるなんて言ってません!」

「は?黒毛和牛食べたいって言っただろ?」