✱ ✱ ✱




「なあ、そこのアンタ」

 それは九月の終わりを、後数日で迎えようとしていた日の夜のことだった。

「え? 私、ですか?」

「そう、そこのアンタ。  悪いんだけど、スマホ貸してくれないか」

「は?す、スマホ……?」

 突然見知らぬ人男に話しかけられた私は、困惑した。 なぜなら私は、男の人があまり得意ではないからだ。

「頼むよ。どうしても電話しないとならない所があるんだ」

 そんなことをお願いされては、断ることなど出来ない雰囲気を醸し出されてしまう。

「頼む。一生のお願いだ」

「……まあ、いいです、けど」

 スマホを貸すくらいならいいか、などという考えを持ってしまった私は、仕方なくスマホを貸してあげることにした。

「ありがとう。このお礼はちゃんとするよ」

「そんなの、いいですから」

 スマホを渡してあげると、その人は慌ただしく誰かに電話を掛け始める。
 私は電話が終わるまで近くにあるベンチで座って待つことにした。 
 会話が聞こえないような位置で待つこと約五分ほどで、男性は私の元へと戻ってきた。

「ありがとう、助かったよ」

「いえ。……にしても、なぜあなたのスマホはないんですか?」

 そこはどうしても気になる。