「じゃあ、おいで」
「……おいでは、イヤです」
奏音はなぜかそっぽを向いてしまう。
「じゃあなんだったら、いいんだよ」
「……おいでって、ペットみたいでイヤです」
ああ、なるほど。奏音はその「おいで」という言葉をペットみたいでイヤだと思ったから、そう言ったのか。
「奏音、俺の腕の中においで」
腕を広げて、奏音を受け入れる体勢を取る。
「だ、抱きしめられたこと、ないので……恥ずかしいです」
「ん、じゃあ俺から抱きしめるな」
「へ?……っ!」
奏音の背中を包み込むように抱きしめる。
「は、恥ずかしいって……言ったのに……」
「恥ずかしがることなんてないよ、奏音。これは恋人なら普通のことだから」
「……その普通が、私には分かりません」
奏音という恋愛未経験女子には、抱きしめられるということも未知の世界なのだろう。
恥ずかしいという気持ちが強いんだな。
「奏音、今抱きしめられて、ドキドキする?」
「ドキ、ドキ……?」
「そう、ドキドキ。してる?」
なんか分からないけど、俺はとてもドキドキしている。 俺の方こそ、なんというか……。
恥ずかしいという気持ちが、少しあるのだろう。
「き、緊張は……してます」



