君の世界に触れさせて

「どうして? 美音だって、夏川君の写真好きだったじゃん」
「それは……そう、だけど……」


 七瀬さんに諭すように言われると、篠崎さんは口篭りながら、僕から視線を逸らす。


 これが、よく見る反応だ。


 何度経験しても、この辛さには慣れそうにない。


「……夏川、また私たちをカモフラージュに使おうとしてるんじゃないの」


 次に僕を見たときは、鋭い視線だった。


 原因は今朝の会話だろう。

 周りに聞こえないように話していたわけではないし、なにより、それなりに注目を集めてしまったから、知らないわけがない。


「カモフラージュって?」


 なにも知らない七瀬さんが、純粋な声で聞く。


「莉子、覚えてない? 夏川が写真を撮るのは、花奈先輩を撮りたい気持ちを隠すためってやつ」
「いや……どうだった、かな……」


 曖昧に答えるところを見ると、覚えていないわけではないらしい。


 だけど、七瀬さんはすぐに笑顔を作った。


「でもほら、それってただの噂でしょ? 夏川君が言ったわけじゃ……」
「でも、夏川は否定しなかった」


 篠崎さんは七瀬さんの言葉を遮った。


 その声色は厳しく、七瀬さんは口を閉じてしまう。


 僕も、反論の余地がなく口が挟めない。