君の世界に触れさせて

 僕は不安しか芽生えないのに、佐伯は一切感じていなさそうだ。


 他人事と思っていそうで、ため息しか出ない。


 なにを言っても聞き入れてくれなさそうだったから、諦めてただ佐伯の行く先について行く。


 そして辿り着いたのは、三年生の教室だった。


 そこでは、吹奏楽部のフルート奏者が練習をしている。


 ワンフレーズを繰り返し練習している音が聴こえてくる。


 僕も佐伯も、どのタイミングで入ればいいのかわからなくて、先に教室に入るのを押し付け合う。


 僕が佐伯の背中を押すと、佐伯は僕の後ろに回って、僕の背中を押す。

 そして僕が佐伯の後ろに移動して、というのをバカみたいに繰り返した。


 とうとうバランスを崩し、二人揃って教室に入ってしまったことで、音が止まった。


 部員と僕たちはお互いに顔を見て、言葉に困る。


 重く気まずい空気に耐えられそうにない。


「……佐伯、戻ろう。僕たち、邪魔だよ」


 佐伯に声をかけるけど、佐伯は戻ろうとはしなかった。


 引っ張っても、頑なに動こうとしない。


「あれ。佐伯君と夏川君が部活中に来るなんて、久しぶりだね。どうしたの?」


 なんとしてでも帰ろうとしていると、同学年の七瀬さんが後ろからやって来た。


 おかげで、完全に退路が断たれた状態になってしまった。