君の世界に触れさせて

 あの噂のせいで、僕が写真を撮るのは、花奈さんを撮りたい欲望を隠すためだ、なんて言われてきた。


 それすらも否定してこなかったから、僕がカメラを向けて笑ってくれる人は、今やほとんどいない。


「そうですか……」


 矢崎先生は納得できない表情をしながら言い、席に戻っていく。


 その背中からも落ち込んでいるのがわかる。


 そして矢崎先生は椅子に腰を下ろすと、身体を僕たちのほうに向ける。


 残念そうな顔がはっきりと見え、前言撤回をしたくなってしまう。


「また夏川君の写真が見れるのを楽しみにしていたのですが……そう、一年生にもいるんですよ。夏川君の写真を待ち望んでいる子」


 矢崎先生の表情は少しだけ明るくなる。

 その視線で、“知っていますか?”と言われている気がした。


「……古賀依澄、ですか?」


 僕が名前を答えると、矢崎先生は小さな声で笑った。


「やっぱり古賀さんは、夏川君に直撃したんですね」


 やっぱりということは、あの勢いでここを訪れたのだろうか。


 それを想像するのは容易く、そして“直撃”という言葉があまりにも相応しくて、思わず苦笑する。


 一方で、古賀が僕の写真を楽しみにしているというのは、殺し文句に近かった。