「どうして“ありがとう”なんですか?」


 未だに夏川先輩の写真の良さに気付いてくれない咲楽が、心の底から不思議そうに言った。


「私ね、栄治くんの写真が好きなの。だから、また見れるのが嬉しくて」


 それを聞いて、心の奥底で黒い感情が芽生えた気がした。


 私と同じで、夏川先輩の写真を好きだと言う人に出会えたのに。


 どうして私は、苦しいと感じているんだろう。


「じゃあ、もしかして、夏川栄治の彼女だったりします? あの写真って、完全に恋してる眼だったじゃないですか」


 恋バナ好きの咲楽が嬉々として聞くと、その場の空気が固まった。


 この雰囲気から、咲楽の予想は間違っているとわかるけど、こんなにも変な空気になるものなのか。


 私も咲楽も、わからなかった。


「違うよ」


 言葉で否定したのは、夏川先輩だ。


 すると柚木先輩が穏やかに、そして嬉しそうに微笑んだ。


「うん、違う。私は栄治くんとは付き合ってない」


 ここまではっきりと否定して、嬉しそうにしている理由が、まったくわからない。


「夏川栄治とは……てことは、彼氏はいるんですか?」


 柚木先輩は少し頬を赤らめて、さっきよりもより柔らかく笑った。


 今日一番の幸せそうな顔だと思いながら見惚れていると、シャッターの音がした。